左官仕上げの妻壁『本漆喰硬押え一分五厘面尾垂れ』

【伝統建築現場レポート】本漆喰の妻壁④ 2014年5月30日


我が家の顔(おでこかなぁ?)である妻壁は、下地として塗ったモルタルの上に、中塗りとして8mmぐらいの厚みで砂漆喰を塗っています。本来モルタルと漆喰は接着性が弱く、砂を含んだ砂漆喰がモルタルと漆喰の間を取り持つために塗られます。

モルタルに含んだ砂と砂漆喰の砂が仲よく、砂漆喰の漆喰と本漆喰の漆喰が同じ素材なので、これまた仲よく、喧嘩しやすいモルタルと本漆喰を砂漆喰が仲を取り持つらしいのです。

ちまたで仲よし三人組のご婦人方を見てると、他の二人それぞれと仲の良いご婦人と、二人だけなら喧嘩するご婦人方がいたりしません?そんなものらしいです。そのため、手間であっても三層必要なのだそうです。合計我が家の妻壁の左官仕事は18mmぐらいの厚みです。

助手として作業をしてくれた達弥さんによると、外壁で硬押えをする所なんて最近の現場ではほとんど無い。ということでした。

本漆喰硬押え

妻壁の仕上がった、建築中の我が家。荒壁の部分に板が縦に貼られます。レポートが遅れたため、現在はとてもきれいに仕上がっているのですが、報告はまたの機会に。
その前に、この壁“本漆喰硬押え一分五厘尾垂れ”の意味を親方に聞きましたので、説明します。

 width=《本漆喰》

伝統的な本来の漆喰です。現地で江原親方が漆喰の原料を調合・練ったものです。他の多くの建築現場では工場で調合された製品を使っている時代に本格的な仕上げをしてくださっています。まるで江戸時代の蔵のような美しい壁です。

《硬押え》

江原親方の腕の筋肉を見ると力が入っていることが分かります。単に漆喰を塗っているのではなく、しっかりこてで押えながら固く塗り付けてます。映像でも紹介しますが、大きく足を広げて一気に押え塗りしています。最近の漆喰は薄く塗るのが主流だそうですが、本来漆喰はしっかりと厚く塗られ、防火の役割もになうものなのです。硬押えをするためには鏝も伝統的な鏝を使います。力をかけて、かつやわらかくという鏝を使います。

《一分五厘》

一分五厘について、前回の記事で、尾垂れのサイズと勘違いしていたのですが、実はこの角の斜めの所の幅でした。

《尾垂れ》

今回の妻壁の最大の難所なのかも。漆喰の壁で板壁の上端を覆って、雨が内側に張らないようにとの工夫です。
「棟梁に面倒な仕上げを頼まれた」ってなぜかうれしそうにしていた江原さんです。何度も定規を付け替えて隠れる部分まで一面ずつ塗っていくので、大変な手間です。防水紙と漆喰の間の壁になってる部分に壁板が差し込まれるので、雨が壁の中に張らない仕掛けになってます。

塗り上がって、美しい壁。乾くともっと白くなるそうです。
棟梁の息子の都倉達弥さん。鏝と壁を見つめながらしっかり押えてます。
独立最初の仕事がこの妻壁。お兄さんが現場責任者のこの家、見るたびに兄弟で初づくしだなぁ。施主としても思い出になるなぁって、なぜかうれしくなってしまいます。これから頑張ってね!
いつもと違って職人さんの仕事を見守ってる都倉棟梁。棟梁自身、この本漆喰の妻壁を気に入っていて、よくきれいだねぇって現場で一緒に眺めています。
でも、この時は父の目ででした。
数日経って乾いてきた妻壁。美しい仕上がりです。我が家の自慢の一つです。この後、下に壁板が差し込まれていくと、ますますきれいになっていきます。ログハウスみたいな家を創造していたら、時代劇のお屋敷みたいになってきました。予想以上に素敵な家です。
同じカットで、フラッシュを切って撮影しました。落ち着いた白さが分かります。

《本漆喰硬押え》都倉達弥さんの映像

若いとはいえ、ヨーロッパに教えにいくほどの腕。江原さんの指示を的確につかんで、美しい本漆喰を仕上げていきます。この日の鏝は江原さんの物。本当に使いやすいらしく、いい鏝だって何度も言ってました。硬押えに使う鏝自体も伝統的な職人さんが作った物。ここでも職人さんの引退、継承できないという問題が続いているそうです。達弥さんもなんとか掘り出し物を探したいと話してました。

《本漆喰硬押え》江原親方の映像

大きく足を開いて、壁一面を一気に押さえつけていく江原さんの技術。横で見ていても歌舞伎役者の動きのようにかっこ良い。「よっ左官屋!」って、叫んでみれば良かった!

現場で撮影して気がついたのはすばらしい職人さんの動きは美しいということです。動きに理由付けがある、型があるのですね。都倉棟梁の動きを見てても、同じ発見の連続。どこかで紹介します。

前に掲載したチリ拭きの時の刷毛の水切りの音もやはり水分量の調節のためとのこと。場合によっては叩く回数を減らしたりするそうです。

やっと、本漆喰の妻壁のレポートが終わりました。次回からは大工仕事の紹介です。遅れの幅がどんどん広がっていってるので、少しペースを上げて頑張ります。

次回は『外壁工事前に窓枠とサッシの工事』です。おたのしみに。